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障害者権利条約制定に向けた<国際セミナー> RIのトーマス・ラガウォール事務総長を迎えて 東京ヘレン・ケラー協会 福山 博 |
6月8日(水)午後1時半より、(財)日本障害者リハビリテーション協会主催による「障害者権利条約制定への国際NGOコーカスの活動について」と題した国際セミナーが戸山サンライズにおいて、約60名の参加者を集めて開催された。 2001年12月の国連総会決議により設置が決定された障害者権利条約を検討するための特別委員会は、すでに5回開催された。このうち第3回以降は、2003年1月に特別委員会の作業部会で作られた条約草案に基づいて、各条ごとに徹底的な討議が行われている。 特別委員会では、国際NGOコーカス(Caucus)と呼ばれる、障害当事者団体を中心とした多くの国際NGOから構成されるゆるやかなネットワークが、障害者権利条約について非政府機関側としての意見を集約し、それを条約交渉に反映すべく活発な活動を展開している。 このたびの国際セミナーは、国際NGOコーカスの中心メンバーのひとつであるRI(Rehabilitation International)のトーマス・ラガウォール(Mr. Tomas Lagerwall)事務総長の来日を機に、現時点における障害者権利条約の討議内容を包括的に理解することを目的に、JDF(日本障害ファーラム)の協賛を得て、実施されたものである。 同事務総長による「障害者権利条約制定に向けて」と題された講演は、まず同条約制定に向けてのこれまでの経緯と背景を述べ、現在の討議内容を概説し、条約制定に向けてのRIの役割と活動内容を紹介。同氏はスウェーデン出身で、ニューヨークのRI事務局本部に勤務する前は、スウェーデン障害研究所企画部長として福祉機器に関する調査・研究・セミナー企画などに携わっていた。そしてその前は、スウェーデンの外務省や同国国際開発協力庁に勤務した経歴を持っている。 同氏は豊かな開発途上国における外交経歴から、「貧困と障害は関連性があり、世界の障害者人口の75〜80%は発展途上国に生活しており、南の人々は北に住むわれわれよりもずっと条約を必要としている」と述べ、同条約における国際協力(第24条第2次案)の必要性を力説。また、「今後2、3年以内に条約に関する協議が終わり、その後、各国政府が条約を批准・実施することになるだろう」と今後の見通しを語った。その際、もっとも重要なことはモニタリング(第25条)メカニズムの構築だと訴えた。ここで、同氏の念頭にあったのは、やはり開発途上国の問題であろう。批准したとしても、実施されなければ絵に描いた餅に過ぎないが、実施には財政的裏付けが必要で、そのためには先進国による国際協力が不可欠だからだ。同氏は、最近中米のホンジュラスを視察した経験を述べ、同国にたいする支援は米州開発銀行に次いで日本が多いことを紹介し、同国と歴史的な利害関係がないわが国が、保健・衛生インフラの構築等で、有意義な支援をしていることを高く評価した。障害者権利条約をめぐっては、障害当事者団体の主張をいかに反映させるかを追求する余り、内向きの議論やアピールが目立つが、「本国際条約を最も必要としているのは誰か」という同氏の指摘は、示唆に富むものであった。 ラガウォール事務総長講演の後は、JDF権利条約委員会金政玉委員長による日本における同条約に関するこれまでの取り組み、とりわけ本年2月には123名の国会議員により、国連障害者の権利条約推進議員連盟が発足したことなどが報告された。また、フロアーから内閣府の依田晶男参事官が特別に発言し、首相を本部長に各省横断的に権利条約に取り組んでいる現状を述べた。 最後に、討議のコーディネーターであったJDF幹事会藤井克徳議長は、「条約疲れという声も聞かれたが、本条約は現在胸突き八丁にさしかかっている。子どもの権利条約は12年かかったが、本条約は提唱からまだ4年しか経っていない」と述べ、早期の制定を目指して、今一層の奮起を参加者に訴えた。 |