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会員/関連団体からの報告・発信

■第20回世界ろう連盟アジア太平洋地域事務局代表者会議 報告

世界ろう連盟アジア太平洋地域事務局長
宮本一郎

2008年12月10日〜12日の3日間、ネパール・ポカラ市において、「第20回世界ろう連盟アジア太平洋地域事務局代表者会議」(以降、「AP会議」)が開かれました。

AP会議には、7ヶ国・1地域からの代表者(日本代表:石野富志三郎国際部長・久松三二本部事務所長)、そして、マルク・ヨキネン世界ろう連盟理事長、ラガブ・ビル・ジョシ氏(ろう者)らのネパール国会議員、ネパール政府・母と子供社会福祉省、JICAネパール事務所、WASLI(World Association of Sign Language Interpreters:世界手話通訳者協会)アジア地域事務局、WASLIオセアニア地域事務局、全日ろう連盟青年部、日本財団、地元のろう者や関係者など、多くの参加がありました。

AP会議の他に、第二日目に、世界手話通訳者協会アジア地域事務局とオセアニア地域事務局の会議が平行して行われました。叉、第三日目のAP会議閉会後、「自由討議」の時間を設けて、代表権を持たない参加者も討議に参加できるように取り計らいました。

ヨキネン理事長は、やむを得ない都合により、開会式を終え次第すぐにネパールを発たなければならなくなったため、AP会議前夜に、「代表者交流会」という企画を設けました。ヨキネン理事長に、障害者権利条約の最近取組み状況についてお話しいただき、質疑応答を行いながら各国の代表者との親睦を深められたことが、各代表者にとって大きな糧であったと思います。

AP会議は、今回で1983年(昭和58年)以来、20回目の会議にあたります。世界ろう連盟アジア太平洋地域事務局(以降、「AP事務局」)にとって、今後の舵取りの方向を示すのに重要な会議であったと、閉会時、改めて強く感じられました。

本会議が開かれたポカラ市は、人口約16万人のネパール第二都市であり、登山の拠点として、叉、快適な風光明媚なリゾートとして知られています。ネパールろう・難聴連盟傘下のガンダキろう協会の拠点を構えており、ろう運動やろう教育の効果および功績が高く評価されています。

カトマンズからプロペラ機で30分ほどであり、参加者の多くにとっては、各国からカトマンズへ飛んで、ポカラへ乗り継ぐことはけっして楽ではなかったようです。しかし、機内窓から、ヒマラヤ山脈のパノラマを楽しめた人達もいたようで、それが、地元実行委員会にとって救いであっただろうと思われます。

本会議に出席した代表者の国は、日本、ネパール、韓国、シンガポール、インド、スリランカ、ニュージーランド、マカオの7ヶ国・1地域でした。チベット障害者連盟からも参加申込みがありましたが、気候事情で参加できなくなったことが惜しまれます。

本会議にとって重要な議題は、(1)AP事務局から太平洋地域が分離独立して、「オセアニア地域事務局」を設置することについての討議と、(2)AP事務局青年部(以降、「AP青年部」)の承認でした。

(1)は、2007年の世界ろう者会議マドリッド大会の期間中に設けられたAP会議において、オーストラリア・ニュージーランド・フィジーの3ヶ国から提案されていました。本会議で改めて、出席代表者の間で、AP事務局体制について討議を行いました。AP加盟国同士の良好な関係を考慮し、分離独立についての賛成/反対の採択を行わず、事務局長から組織提案を示して、合否採択を取ることにしました。その結果、全員一致で、事務局長案で通していくこととなりました。事務局長案は、オセアニア地域事務局をAP事務局内の支部とし、且つ、太平洋地域活動のための便宜上名義として使うという内容でした。

(2)は、2008年6月にインドネシア・スカブミ市で開かれた「世界ろう連盟アジア太平洋地域事務局ろう青年キャンプ」で、規則・体制などを討議してまとめたことを報告して、AP事務局傘下にAP青年部を置くことの承認をとりました。それに伴い、今後のAP会議でのAP青年部の位置付けと、発言権について、討議しながら確認しました。引き続き、AP青年部長の選挙を行う予定でしたが、青年部代表の出席が少ないため、保留となり、AP青年部長の誕生を見送ったことが残念でした。

カントリーレポートの際に、各国における「障害者権利条約」の取組みを伺ったところ、 理解啓発や、政治への働きかけが全く行われていないという国々が多い有様でした。大半は、その条約の存在は知っているが、取組みは行っていないという状態でした。ろう当事者団体が取り組んでいるのは、出席の内で、日本とニュージーランドだけでした。

本会議前夜にヨキネン理事長の話を聞いて、取り組みの必要性を理解して、自らからろう運動課題の一つとして取り組んでもらえたら、AP事務局にとって大変嬉しいことです。しかし、AP事務局では、各国の協会に取り組ませるように展開方法を、次回会議までに検討しなければなりません。

他の活動報告では、世界ろう連盟が、スウェーデンろう協会及びSHIA(スウェーデンの障害者組織が作った国際協力組織。Swedish Organisations' of Persons with Disabilities International Aid Association)の協力を得て、2007年夏から2008年秋までに世界各国のろう者人権についての調査を行いました。その結果がまとめられて2008年12月に報告書がSHIAへ提出されたことの経緯を、事務局長から報告しました。

更に、事務局長単独で、この報告書から、AP地域各国の聴覚障害者人口と手話通訳者人口を取り上げて、比較分析した結果を報告しました。(手話通訳者資格有無を問わず)手話通訳ができるレベルの健常者人口(A)で、聴覚障害者人口(B)を割って算出された、(A)の一人当たりの数値(C)の数値は、各国の間で、大きな開きがありました。

日本の場合、手話通訳者1人につき、聴覚障害者を14人抱えることになります。オーストラリアが21人、ニュージーランドが180人、韓国が350人ですが、途上国では千人単位以上の数値がみられました。

現在、AP地域では、政府・自治体との交渉で、ろう者の意見要求が反映されるように至っていないという問題現状が一番大きいです。その現状を踏まえて、手話通訳者の増加確保と、派遣事業の充実が、重要な課題であり、AP事務局から働きかけなければなりません。

最後に、AP事務局体制と、APにおけるろう運動における協力体制ついて見直さなければならない時期に差し掛かっています。
世界ろう連盟には会員ランク(4段階)があり、2008年時点でAP地域内のトップランクは、日本・ニュージーランド・オーストラリアに韓国が加わって、4ヶ国です。日本では、JICAなどの国際支援機関との協同で国際支援に長く関わっています。オーストラリアやニュージーランドは、最近になって、両政府予算に、途上国などの障害者支援に関する予算が盛り込まれました。

国際支援活動という広大な海原を、日本が単独で突き進む時代から、日本・韓国・オーストラリア・ニュージーランドが一緒になって走る時代へ移行しなければなりません。そのためには、当AP事務局において、4ヶ国が共同となって分担協力ができるように、連絡体制の強化と、情報収集・連帯などの機能を整えていくことが重要であると、本会議を通して、事務局長として改めて強く思いました。

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