平成26年7月24日
アジアの障害者活動を支援する会
会長 八代富子
当会「アジアの障害者活動を支援する会」は、ラオスの障害者の積極的な就労ロールモデルを育成することを目的とし、平成23年5月より3年間貴日本NGO連携無償資金協力「国際協力重点課題」分野で「ラオス障害者就労支援事業」を行ってきました。
ラオスでは、国が障害者の就労について、法律として支援策を全く行っていません。ラオスはメコン5か国の中でも最貧国であり、障害者の社会参加はなかなか実現せず、障害者が地域で生きるためには多くのバリアが存在します。障害者は最貧困層に位置し、アクセスが悪く、教育を受けられず、生活が困窮している障害者に対し、国による就労支援や職業訓練も少なく、障害者が社会自立の一歩を踏む出すことが難しい状況は今もって変わらず存在しています。
一方、海外NGOによる障害者支援は盛んであり、ビエンチャンの都市部には障害者の職業訓練学校も存在し、また、欧米のNGOが都市部の障害者の就労向上のためのパイロットプログラム等いくつか行われていますが、就労モデルとして成功した例はまだ少ないのが現状です。
「職業訓練の提供だけでは根本的には障害者の収入向上にはつながらないのではないか?」
当会は職業訓練の限界と職業訓練と同様に必要なビジネストレーニングの必要性について長い間、解決策を考えていました。
そこで、当会が考えたのが、新しい形の障害者のビジネスモデルでした。NGO等海外の支援期間が決められており、数年後には終わりを迎えなければなりません。ラオスが社会全体で支える持続可能な障害者の就労モデルの構築を・・・。この目的の下、新しいプロジェクトを立ち上げました。
「仮想店舗」として機能する当会の就労ワークショップ(技能訓練)を「働く場」と考え、そこで日本及びタイの職業訓練専門家より職業訓練を受けながら、同時にビジネスとしてスタートさせ、研修生の収入向上を促しました。
私達が関わる障害を持つ研修生とは、就労支援や職業訓練等の機会から取り残された貧困層の「教育を全く受けていない障害者」です。障害が軽い場合、通常の高等教育を受けられ、就労の機会もありますが、私達のプロジェクトの研修生は、ほとんどが初等教育あるいは全く教育を受けてこなかった研修生であり、技能研修の理解力もまちまちで、判断力、理解力、社会性の欠如が著しい研修生もいました。
当会が提供している技能訓練は、まさに、形や図形を利用して理解を促すという根気の必要なゼロからの技能訓練及び就労支援でした。理解力や指導力を発揮させるところまで育成するには通常の2倍の時間を要しました。
しかし、そのような障害者でも、必ず一つは自分に得意な職業能力を持ち合わせており、その職業的能力の開拓に当会スタッフは力を入れました。時間もかかり根気のいる仕事ではありましたが、研修を通じてその職業能力を開花させることができると考えました。
研修生は技能訓練を受ける傍ら、実際に顧客と関わり合うことでビジネス管理、ビジネスのノウハウを直接学びました。顧客はまさに「地域に住む一般のラオス人」でした。お客様として訪れる「顧客」から、実際にサービスについて学ぶことができ、「顧客」が私達の障害を持つ研修生を育成してくれました。
お客様が「ありがとう」と言ってくれる言葉にどんなに研修生が励まされたことでしょう。顧客に満足される「物」「サービス」を提供することは並大抵な覚悟では難しいです。
しかし、ラオスにはないプラスαの付加価値をつけ、その「物」「サービス」を提供することができるようになった3年間を通じて、障害を持つ研修生の働く意欲、ビジネス管理能力、就労の喜び、技能の対価として収入創出の成果を引き出すことに成功し、小規模ビジネスとして起業を果たした研修生も輩出することができました。
とりわけ、美容やベーカリー部門は、近隣に住むラオス住民、またラオスに在住する邦人及び外国人駐在員にも多く支援され、第2期目から現在に至り(平成26年5月現在)2年間美容部門は延べ5,000人近い顧客が当会ワークショップを訪問しました。近所に住む70歳のラオス人のおばあさんは週に4回もシャンプーのために当会の美容院を訪れてくれます。聴覚障害者の研修員もいる美容院でしたが、コミュニケーションでもジェスチャーと笑顔でおばあさんは彼女達の日本人技能専門家から習得した「高い技術」を受けるために訪れてくれるのです。
ベーカリー部門は7つの異なるクッキーレシピを開発し、パッケージ販売を行い、ビエンチャン市内取引店舗は18店舗(中小の商店が主)に増えました。ラオスの大企業(ラオテレコム、ラオトヨタ)も当会事業が作り出すクッキーの高品質、おいしさに注目し、企業の販促用グッズとして、当会クッキーを購買してくれるようになりました。販促用のクッキーはディーラーからも喜ばれ、更に車の販売に貢献すると、販促用のクッキーの量も更に増やしてくれました。
「どんな支援が必要ですか?もっと大きいオーブンが必要?」企業から支援の提案もしてくれるようになりました。まさにラオスにおける「CSR企業」の誕生だと皆で喜びました。
企業から支援を呼び込むことに第3期目で成功し、大企業も当会障害者就労支援に注目し、雇用も含め当会との協働を模索しており、ラオス企業のCSR促進の大きな一歩となりはじめました。
ここでも押し付けではない「ラオス人」が「ラオス人のペースで」当会の事業を支援しようという輪が広がってきました。ラオスの企業が「協力したい」と申し出てくれるようになったのです。
当会が一番大事とする点は、「持続可能なプロジェクト」です。ラオス人を、ラオス社会を、ラオス企業を巻き込み、支え合う仕組みを模索し続け、今それが始まっています。
以下、私達が重要と思う企業との連携の意義を述べたいと思います。
① 障害者への技能訓練や就労支援、起業支援を一面的に後押しするだけでなく、障害者の就労自立を多くの一般のラオス人及びラオス企業が支える仕組み、すなわち障害者就労を支援していくという先進国で見られる企業のCSR(企業の社会的責任)を促進することにより、ラオスにおける障害者の社会自立が更に加速されると考えます。ラオス企業のCSRへの取り組みは今始まったばかりであり、今後様々な大手内外企業が企業の社会的責任としてラオスの社会的弱者支援に興味を持ち始め支援を模索していることがわかっています。しかし企業は各セクターのニーズ把握が完全に出来ていないのも現状です。そのミスマッチを埋め、企業にもプラスとなる「支援の価値」を認識してもらい、双方がプラスとなる障害者支援の在り方を提案することが重要です。
② 企業の支援を呼び込むために、障害者当事者による質の高い「商品の開発、生産、販売、サービスの提供」をアピールすることにより古い企業意識を変えることが出来ると思います。まだラオス社会や企業の中では、障害者は慈悲の対象であり、職業能力を伴う生産性のある存在と認められていません。企業がその古い意識を変えることで、より広くラオス社会にも障害者の力の再認識が広がると考えます。
ラオス国内で始まった「企業を巻き込む障害者就労支援」。ラオスの首都ビエンチャンで社会、企業が障害者をバックアップするような仕組みができれば、と考えています。将来的にはラオスの政府に政策提言が出来れば、と当会の希望は大きく膨らんでいます。