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2006年1月15日 国際セミナー
「世界の障害者インクルージョン政策−ソーシャルファームの経営と障害者支援活動−」

埼玉大学総合福祉学部
寺島 彰


  ソーシャル・ファームは、1970年代に社会的共同組合(Social cooperative)として成立して以来、ヨーロッパ各地に拡がったが、その定義は、EU域内で統一されているわけではない。しかし、近年、英国が、労働党政権のもと、「市場の失敗」と「政府の失敗」を克服するための「第三の道」として「ソーシャル・エンタープライズ」の普及を推し進めており、そのなかで「ソーシャルファーム」の普及をはかっている。

  英国において、「ソーシャル・エンタープライズ」とは、社会活動を行う企業で、利潤を企業主や株主に還元せず、すべての利潤を企業活動に再投資するところに特徴がある。通産省に「ソーシャル・エンタープライズ」部門が創設され、その普及が推進されている。この政策において、英国で伝統的な福祉施設を「ソーシャル・エンタープライズ」に転換させようとしている。その形を「ソーシャル・ファーム」と呼んでいる。「ソーシャル・ファーム」は、利潤の50%以上を事業収入から得ていることと従業員の25%以上が障害者などの社会的弱者でなければならないとされている。つまり、「ソーシャル・ファーム」は、福祉施設と企業との中間的な存在であり、障害者などの社会的弱者を従業員とした「ソーシャル・エンタープライズ」であるといえる。

 われわれの関心事の一つは「ソーシャル・ファーム」をどう評価するかであった。従業員の25%以上が障害者で利潤の50%以上を事業収入から得ることは、現実的に可能なのであろうか。英国では収入の残りの50%は、自治体からの補助や寄付金でまかなっているようである。わが国の障害者福祉工場では、同じことが可能なのだろうか。従業員になる障害者は軽度者に限定されないのだろうか。

 このようなテーマについて、炭谷茂環境事務次官・日英高齢者・障害者ケア開発機構副委員長、ゲーロルド・シュワルツ・ドイツ・ソーシャル・エンタープライズ・パートナーシップ所長、スチュアート・マッケンジー英国・ソーシャル・ファーム・アクアマス営業部長の3講師から講演をいただいたのち、山内繁早稲田大学人間科学部特任教授をコーディネーターとして、フィリーダ・パービス・リンクス・ジャパン代表、上野容子東京家政大学助教授、伊野武幸ヤマト福祉財団常務理事が加わり議論した。

  結論は出ていない。しかし、ソーシャルファームの可能性に対する期待が会場から多く寄せられた。各市町村で最低1カ所ずつという声も聞かれた。今後の具体的な検討が求められている。