JANNET障害分野NGO連絡会 メールマガジン 第257号 3月号 2025年3月31日発行 ―目 次―  トピックス 〜第24回「リハ協カフェ」登壇報告〜 1. デジタル図書(マルチメディアデイジー) ・教科書製作のご紹介 公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会 情報センター 副センター長 吉広 賢史 〜第24回「リハ協カフェ」登壇報告〜 2. 重度障害者によるマルチメディアデイジー図書製作へのチャレンジ 公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会 参与 西澤 達夫 インフォメーション 1. 国連障害者の権利条約(UNCRPD)締約国情報 2. RI(Rehabilitation Inetrnational) Newsletterを掲載しています。 トピックス 〜第24回「リハ協カフェ」登壇報告〜 1. デジタル図書(マルチメディアデイジー) ・教科書製作のご紹介 公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会 情報センター 副センター長 吉広 賢史 ※去る2025年1月31日に開催した、(公財)日本障害者リハビリテーション協会主催『第24回「リハ協カフェ」』にてご登壇いただいた内容を、まとめていただきました。   マルチメディアデイジーは、文字や画像をハイライトしながら、録音された音声と一緒に読むことができるデジタル録音図書です。視覚障害者のほか、手などの障害でページがめくれない人、発達障害等で印刷された文字情報を読むことが難しい人にも読みやすい図書となっています。 当協会では、平成20年度からボランティア団体等と協力して、小中学校の発達障害など読みの困難がある児童生徒にマルチメディアデイジー教科書の製作・提供を行っています。 デイジーで期待される効果としては、読みの負担の低減になります。音声が再生され、読んでいるところがハイライトしますので、視覚と聴覚から同時に入ることにより、情報の処理、認知につながります。現状の紙の教科書では、読むこと自体に一生懸命で内容が入ってこない場合でも、デイジーを使うと、読みの負担が減って、内容の理解に集中できます。紙の教科書では、レイアウト、フォント、文字の大きさ、向き、背景色、文字色は固定ですが、デイジーは読みやすいように変えることが出来ます。また、すべてのテキストに校正済みの音声がついていて、再生にあわせてハイライトします。デイジーを使うと、紙の教科書に比べて、自由度が多く、一人一人の困難さに応じたカスタマイズができます。 デイジー教科書は、パソコンやタブレットに標準でインストールされているインターネットブラウザを使って簡単に再生できます。操作ボタンをシンプルにまとめてありますので、練習をすれば、児童生徒が自分で操作することも可能です。 デイジー教科書は、通常の印刷された教科書では読むことが困難な児童、生徒の学習用途にのみ利用が可能です。2024年8月からは外国籍等の「日本語に通じない」児童生徒もデイジー教科書の利用が可能となりました。デイジー教科書データは無料でご利用いただけますが、利用申請は年度ごとに必要となります。 デイジー教科書では、小学校98%、中学校92%の検定教科書をマルチメディアデイジーで提供しています。平成20年度に80名の児童生徒への提供を始め、平成25年度に一千名、平成30年度に一万名、令和5年度には二万名を超え、利用者数は年々増加しています。必ずしも利用したすべての児童生徒に成果があるということはありませんが、まだ利用したことの無い読みに困難をもつ児童生徒は、ぜひお試しください。 教科書以外にも児童書等をマルチメディアデイジーで製作し「デイジー子どもゆめ文庫」サイトで提供しています。こちらもあわせてご利用ください。   サイトのご紹介 日本障害者リハビリテーション協会のデイジーホームページ https://www.dinf.ne.jp/doc/daisy/ マルチメディアデイジー教科書 https://www.dinf.ne.jp/doc/daisy/book/daisytext.html デイジー子どもゆめ文庫 https://yume.jsrpd.jp/         〜第24回「リハ協カフェ」登壇報告〜 2. 重度障害者によるマルチメディアデイジー図書製作へのチャレンジ 公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会 参与 西澤 達夫 ※去る2025年1月31日に開催した、(公財)日本障害者リハビリテーション協会主催『第24回「リハ協カフェ」』にてご登壇いただいた内容を、まとめていただきました。 マルチメディアデイジー図書は、ハイライトしたテキストと同期して音声を再生できるため、発達障害等で通常の印刷された文字の読みに困難を持つ子どもたちへの支援として定着しつつありますが、冊数は限定的であり、製作体制の拡充が喫緊の課題となっています。 一方で近年のICTの発展により在宅での勤務も普及してきていることから、これらの技術等を活用して、移動が困難な筋委縮性側索硬化症(ALS)、筋ジストロフィーなど、在宅でパソコンを活用されている重度障害のある方々のマルチメディア図書製作への参加の可能性を調査することを目的に本事業を生活協同組合様の支援をいただいて2018年に始めました。 マルチメディアデイジー図書の製作には、テキストと音声の同期作業や発音の調整を行う編集用ソフトウェアを使いこなす必要があります。マウスやキーボードの操作に様々な制限のある重度の障害者の方の負荷を減らす目的で、当初は製作工程を細分化して、編集作業を数名で分担する方法で製作していただきました。 その結果、パソコンの操作時間こそ長めになるものの編集作業そのものについては、どの作業を分担された方も問題なく終了できたため、2023年からは、編集作業者としての自立を目指して、全ての編集作業を一人で担っていただく方式に切り替えました。併せて編集ソフトウェアも肉声録音が不要な高音質の音声合成を使用するものに変更しています。 新しい製作ソフトウェアの操作方法は、学習素材として、オンデマンドの講習用動画を提供することで、いつでも自分のペースで習得する環境を提供しました。そして、質問等については、メールでの対応を基本として、必要によりオンライン会議システムを使用してサポートしました。そして、作業終了後にアンケートを実施し、作業上の気づき、課題、意見、感想等を集約しました。 製作には、計5名の方にご参加いただきました。難病、脊髄損傷で身体の動作に制限があり、身体の一部のみ動かすことができる方々です。内3名の方は、人工呼吸器を使用されています。 パソコンの操作については、スイッチのオン・オフ操作のみでマウスの移動方向の切り替えと左右のクリック操作の切り替えを行う方が2名で、文字の入力数やマウスの移動距離に比例して操作時間が長くなる傾向にあります。右クリックが苦手な方が2名で、右クリック時のコンテキストメニューのみで操作可能な選択肢の使用が困難です。残りの1名の方は、左手に付けたスティックの先端で、小型のトラックボール付マウスとキーボードを操作するため、操作時間が掛かる傾向にあります。そして全ての方に共通するのは、キーの多重押しができないことで、Ctl+C等のショートカットキーもキーを複数回押す必要があります。 製作していただいた結果、全員が製作ソフトを習得して、図書製作作業の全工程を担当して製作することができました。これには、オンデマンドの講習用動画の活用が効果的でした。支援方法についても当初の想定通りで対応できました。 アンケートを実施結果した結果、製作ソフトの改善要望があり、内容としては、3重ショートカット、右クリック等の代替えメニューを追加するとともに、自分でカスタマイズ可能なメニューを新たに設ける改良を実施しました。 改良版を使用した結果、大変使いやすくなったとの感想を頂戴しましたが、これらの改良は、一般利用者にも有効であり、ユニバーサルデザインの実現事例と考えています。 まとめになりますが、製作に携わって、とてもやりがいを感じされるとの感想を頂戴することができました。このプロジェクトのゴールとしては、在宅での就労を目指すことで、誰一人取り残さないという「持続可能な開発目標SDGs」を実現していきたいと考えております。   ******************************************************************************** インフォメーション 1.国連障害者の権利条約(UNCRPD)締約国情報 (関連サイト:http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/rights/right.html) 署名国・地域数164/ 締約国・地域数 192 (2025年3月末現在) https://treaties.un.org/Pages/ViewDetails.aspx?src=IND&mtdsg_no=IV-15&chapter=4&lang=en 2.RI(Rehabilitation Inetrnational) Newsletterを掲載しています。 国際リハビリテーション協会(RI: Rehabilitation International)の新会長に Prof. Dr. Christoph Gutenbrunner(ドイツ)が就任されました。(2024年10月) 2024年11月号から、RI Newsletterが発刊されています。以下のリハ協サイトからご覧いただけます。 https://www.dinf.ne.jp/english/world/ri_newsletter/       編集後記 桜の季節となりましたが、多くの団体等では4月から新年度となり、気持ちも新たにそれぞれの活動に取り組まれることと思います。 今回のトピックスに取り上げた、マルチメディアデイジーによるデジタル教科書も、障害のある児童生徒や、外国籍の児童生徒にとって、新学期からの学びの大きな力になればと願っています。 国内では、障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法が2022年から施行されていますが、ここでは基本理念として、障害者による(1)情報手段の選択、(2)情報アクセスに関わる地域差の解消、(3)同一内容同一時点の情報取得、(4)デジタル技術の活用をうたっています。実際は、これらを実現するための新たな取り組みは、日本でも、諸外国でも、民間の団体や企業が作り出し進めている例が大半なのではないかと思います。 私たちNGOが発信する情報も、すべての人に等しく届くものとなるよう、心がけていきたいと思っているところです。  (原田 潔/JANNET広報・啓発委員) JANNET事務局では、会員の皆様よりメールマガジンに掲載する国際活動に関する情報を募集しております。団体会員様のイベント情報などありましたら事務局までご連絡ください。 JANNET障害分野NGO連絡会  〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1 公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会内 【JANNET事務局直通】 TEL:03-5292-7628 FAX:03-5292-7630 URL: https://jannet-hp.normanet.ne.jp/ 以上